びわ湖周辺の美しい落日の風景
びわ湖の南端で
対岸のびわ湖ホールのあたりに
分厚い雲間から光が差して、
美しい落日の恩寵です。
2017年3月10日 草津にて
クラーナハはエロでありグロである。
今ならサイコパスと言われそうな女性像や
少女のような裸体、エロじじいと金目当ての情婦など
スキャンダラスなテーマで絵画を量産した
俗っぽいメディア企業のトップ
のようにも思えるが
はるか後世まで参照され続ける改革者の肖像や
祭壇画も同時に描いている。
顧客の様々な要望に応え
硬軟取り混ぜて
ハイカルチャーでもサブカルチャーでも何でもありで
どこよりも素早く完成度の高い仕事を仕上げる
16世紀版「プロフェッショナル 仕事の流儀」で
時代を駆け抜けた。
現代まで参照され続けているのは
ルターの肖像だけではなく
メディア企業としてのクラーナハ工房の肖像。
宗教改革だけではなく、
職業改革でもあったといえるのかもしれない。
● 関連する記事 ~宗教改革の時代に関して~ ●
・『500年後の誘惑 クラーナハ展図録』グイド・メスリング 新藤淳 編著
● 周辺の記事 ●
大阪中之島にある国立国際美術館には建物がない、
ように見える。
美術館があるべき場所には
金属パイプを好き勝手に曲げて組み合わせた
巨大なオブジェが置かれているだけである、
ように見える。
国立国際美術館は地上には入口しかなくて
本体はすべて地下にある。
なぜそんなことになっているかというと
敷地が狭かったことと
たぶん設計者のシーザー・ペリが
モダン作品を中心に集めた美術館らしく
金属パイプを組み合わせだけに見える超モダンな建物を作って
どや顔をしたかったということなのだろう、
と想像する。
何だかこれ見よがしで、
これだからアメリカの建築家はねぇ~
などと思いながら
地下1階のエントランスに降りると
意外と気持ちのいい空間である。
光がいい。
ガラスの天井から地下に差し込む光が
厳かな感じで落ち着く。
ここから地下2階、3階の展示室へ降りていく。
アートの世界に深く没入していく感じである。
とてもいい。
ちょっとパイプが邪魔で、
日本人の頭にある竹のイメージは
もうちょっと繊細な感じだと思うけれど・・・
この時開催されていたのは
《500年後の誘惑》クラーナハ展だった。
地下の奥深くで開かれるのにぴったりのテーマである。
● 関連する記事 ●
『クラーナハ《ルター》』
マルティン・ヴァルンケ 著 岡部由紀子 訳
2006年刊 三元社
宗教改革の歴史が語られる時、
必ずと言っていいほど登場するルターの肖像。
その肖像は政治的な利用のために巧妙に描き分けられていた。
描かれた肖像の政治的背景と
それを描いたクラーナハ、描かれたルターの関係。
現在不動のものとして流通する宗教改革者のイメージが
どのように図像として成立していったかを解説する。
100ページあまりの小さな本で
本体価格2000円はちょっと高いけれど
政治と美術と宗教が交錯する内容はとても興味深い。
『宗教改革の真実』
永田諒一 著
2004年刊 講談社現代新書
後半細かな具体例に入り込みすぎている感じもするが
宗教改革が宗教自体の厳格化と同時に
生活の世俗化=都市政府台頭をもすすめた、
あるいはその両方が時代の枠組みの根底からの変化の
現れであったということがよくわかる内容になっている。
そしてこの枠組み変化とは
宗教体系と日常生活のリンクが外れたことを意味する。
現代に至る<世俗主義>のはじまりである。
『マネーの進化史』
ニーアル・ファーガソン 著 仙名紀 訳
2009年刊 早川書房
アメリカの学者やジャーナリストの書く本はやたらと分厚い。
そして重い。
書架に占める面積もしくは体積こそが、その本の価値であると
言わんばかりである。
だから電子書籍になってくれることがとてもありがたい。
そして合理的だと思える。
この『マネーの進化史』も500ページくらいある
(それでも同じ著者の『憎悪の世紀』に比べれば半分くらいなのだが)
この本の場合、どの章もそれぞれ興味深いのだが
全体としてはやや見通しが悪い気がする。
現代の金融の混乱から遡って
マネーの<リスク>というところにフォーカスしてもらうか
逆に現代の混乱から一歩引いて歴史的視点に徹してもらうか
した方がわかりやすかったように思う。
メソポタミアのトークンとシカゴのオプションをつなぐ線が
少々伸びすぎて霞んでしまうのである。
『寺院消滅』
鵜飼秀徳 著
2015年刊 日経BP社
「日経ビジネス」の記者であり僧侶でもある著者による伝統仏教のレポート
「日経ビジネス」は日本で最も信頼されている経済誌のひとつである。
マネー誌ともゴシップ誌とも区別のつかない
その他多数の自称経済誌とは一線を画した密度の濃い内容で、
それでいて週刊誌としてのフットワークの軽さも兼ね備えている。
そして極めて多様な層のビジネス・パーソンの興味を惹き続けている。
この本もそんな「日経ビジネス」の路線にしっかり乗った本である。
大きな数字で近未来を予測してみせ、読者を驚かせる。
そして現場取材の<生の声>で畳みかけ、
これでどうだと納得させる。
もちろん納得する。
プロフェッショナルな記事ある。
横綱相撲である。
素晴らしい。
でも、
あくまで週刊経済誌の目線でしかないことも確かである。
世の中の移り変わりについて鮮やかに描いてみせてくれるけれど、
宗教意識の核心に迫るわけではない。
だからこれは日本の電機業界が衰退していく姿を追ったレポートと
同等に素晴らしく、そしてそれ以上のものではない。
日経BP社なのだから、もちろんそれでいいのだが・・・