『寺院消滅』 鵜飼秀徳 著  2015年刊 日経BP社

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『寺院消滅』
鵜飼秀徳 著
2015年刊 日経BP社

 

「日経ビジネス」の記者であり僧侶でもある著者による伝統仏教のレポート

「日経ビジネス」は日本で最も信頼されている経済誌のひとつである。
マネー誌ともゴシップ誌とも区別のつかない
その他多数の自称経済誌とは一線を画した密度の濃い内容で、
それでいて週刊誌としてのフットワークの軽さも兼ね備えている。
そして極めて多様な層のビジネス・パーソンの興味を惹き続けている。

この本もそんな「日経ビジネス」の路線にしっかり乗った本である。
大きな数字で近未来を予測してみせ、読者を驚かせる。
そして現場取材の<生の声>で畳みかけ、
これでどうだと納得させる。
もちろん納得する。
プロフェッショナルな記事ある。
横綱相撲である。
素晴らしい。
でも、
あくまで週刊経済誌の目線でしかないことも確かである。
世の中の移り変わりについて鮮やかに描いてみせてくれるけれど、
宗教意識の核心に迫るわけではない。
だからこれは日本の電機業界が衰退していく姿を追ったレポートと
同等に素晴らしく、そしてそれ以上のものではない。
日経BP社なのだから、もちろんそれでいいのだが・・・

 

寺院消滅1

 

 

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『冠婚葬祭の歴史』 互助会保証株式会社・一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会 編 2014年刊 水曜社

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『冠婚葬祭の歴史』
互助会保証株式会社・一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会 編
2014年刊 水曜社

 
執筆者は国立歴史民俗博物館の山田慎也氏他4名
 
冠婚葬祭に関する民俗学・人類学の入門書。
日本における誕生前の祈願から死後の供養までを追う。
互助会の1日研修のテキストとしてまとめられた感じであるが、
写真も多く読みやすい内容になっている。

 

冠婚葬祭の歴史3

 

 

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『贈与の歴史学』~儀礼と経済のあいだ~ 桜井英治 著 2011年刊 中公新書

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贈与の歴史学

 

『贈与の歴史学』 ~儀礼と経済のあいだ~
桜井英治 著
2011年 刊 中公新書

 

日本の中世に関わる膨大で混沌とした資料群から、経済という名の糸を紡ぎ出し、
このような見事な書物に織り上げた桜井氏の歴史家として力量は素晴らしい。
濃密で興味深い内容であり、1冊で4冊分くらいの価値がある。
中世末期の日本において、極限まで発展した贈与経済は市場経済へと羽化する。

 

「贈る」と「返す」が頻繁に繰り返されるうちに、中世末期には、
ただ「贈る」と「返す」の釣り合いを保つためだけに、
贈られたものとまったく同じものを同じ量だけ目録をつけて返す、
というような事が頻繁に行われるようになっていた。
そして、帳面上で相殺や差引きをして済ませるということまで起きていた。
贈ることの意味が欠落しながら、それでも自立的に豊かに回り続ける物品。
それは日本の社会が貨幣経済に移行していく下地になっていた…
意味を失い、没個性化し、非人格化することで、
贈与の中に潜んでいた呪力(マナ)も消滅し、
呪力から解き放たれた無名で純粋な「モノ」は、
市場経済で自由に取引されるようになる。
そして起きる二つの経済・世界観のせめぎ合いとしての徳政一揆。
モースの『贈与論』の日本における歴史上の姿がここにある。
また、対等な立場で行われていた贈与が、
一方的な「税」に変えられることで確立する支配関係や、
恒常化した贈与が「収入」と見なされる姿、
価値の元締めとして中央銀行のような権威があったであろう同朋衆の存在、
寺院に集積した贈与品を市場に還流するオークション、
手形の役割を果たしていた贈答品目録など、
貨幣のない世界で考え得るあらゆる経済活動が、
この時代には起きていた。
今から見れば贈答経済の爛熟が貨幣経済を欲望し希求していたかのようでもある。

近世から近代にかけて、「貨幣」という存在に
あらゆる<価値>が集約されるようになった。
「貨幣」は極めて強力な価値のメディアであった。
現代のわれわれは「貨幣」を捨てて、
電子化した大量の新しい価値の世界で溺れかけている。
中世の終りから近代「貨幣」にすべてが集約されていく
現代と同じような大転換の激流の中で、
人は何を感じ社会はどう変わって行ったのか。興味は尽きない。

 

 

第10回(2012年度) 角川財団学芸賞受賞

 

 

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『人類文化の現在:人類学研究』 内堀基光・山本真鳥 編著 2016年刊 放送大学教育振興会

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『人類文化の現在:人類学研究』
内堀基光・山本真鳥 編著
2016年刊 放送大学教育振興会

 

放送大学のテキストで2016年放送のものです。
科学技術や宇宙人、ケア、ジェノサイド、観光など
現代的あるいは現在的なテーマが盛り込まれた
15回のたいへん興味深い講義。
既にある文化ではなく、観光などによって
文化が生成されていくとはどういうことか、
文化をより大きく捉えるために宇宙から見てみるとどうなるか、
分析そのものの基礎である科学を人類学的に捉え直すとどうか、
新鮮でダイナミックで少々消化不良になりそうな楽しさです。

 

 

人類文化の現在4

 

 

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『贈答と宴会の中世』 盛本昌広 著 2008年刊 吉川弘文館

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贈答と宴会の中世2

 

『贈答と宴会の中世』
盛本昌広 著
2008年刊 吉川弘文館

 

タイトル通り中世の贈答と宴会について記された本である
中心テーマは「接待の慣行」「年中行事と贈答」
「水産物の贈答」「甘いものの贈答」である

 

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『<子供>の誕生』 フィリップ・アリエス 著 杉山光信・杉山恵美子 訳 1980年刊 みすず書房 

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『<子供>の誕生』
フィリップ・アリエス 著 杉山光信・杉山恵美子 訳
1980年刊 みすず書房

ブルジョワ近代の意識構造の根幹部分に
鋭いメスで切り込んだ現代の歴史、社会学における重厚な古典。
近世に学校という枠組みが作られると同時に<子供>という存在が
社会的に強く意識され、社会的実在として確立する。

同時に家という仕切りが社会の中に<家庭>という
極めて強固な概念を作り出す。
中世に<子供>がいなかったわけではない。
近世になって<子供>という社会集団、
あるいは年齢によって区切られる社会の層が
意識されるようになったということである。

それは同時に
<子供>を核としたブロックとしての<家庭>が
敷き詰められて積み上げられた<社会>というイメージの固定である。
そしてそれは科学と啓蒙の果てに出現した
不動のブルジョワ世界観である。

社会における強力な世界観の確立は
社会構造の地殻変動の原因であり結果でもある。
そこにあるのは社会構造の
あるいは世界意識の基底の再編の物語である。

 

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『贈答の近代』 山口睦 著 2012年刊 東北大学出版会 若手研究者出版助成刊行書籍

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贈答の近代2

 

『贈答の近代』
山口睦 著
2012年刊 東北大学出版会 若手研究者出版助成刊行書籍

 

著者は1976年産まれ
この論文を完成させた当時は32歳
若手の優れた研究者である

江戸時代の香典帳の集計や
戦時中の慰問袋の中身の分析といった
地味な研究をひとりで積み重ね (2001年~2008年)
文化人類学における贈与研究や国内の研究成果も
しっかり受け継ぎながら贈答の過去から現在
そして少し先の未来までを見渡している。

戦争が贈答習慣に与えた影響については,やや飛躍も感じられるし
少々ジェンダーに重心が偏っている気もする

出産祝いが女性名で届けられるのは,近年の晩婚化の問題とも関連するだろうし
中国ではイエより個人中心だという点も
共産党革命から文化大革命、
現在の急激な都市化を考慮しなければならないだろう とも思う
贈与の「ゲーム化」というのはわかったようでわからない。

けれど、それでも
日本の贈答研究を確実に一歩押し進めたものとして
この分野では現在最も注目されるべき研究のひとつではないだろうか。
(地味だけど…)

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『日本人の贈答』伊藤幹治 栗田靖之 編著 1984年刊 ミネルヴァ書房

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日本人の贈答3

 


『日本人の贈答』

伊藤幹治 栗田靖之 編著
1984年刊 ミネルヴァ書房

 

この本は1978年から1980年にかけておこなわれた
国立民族学博物館の特別研究「日本社会における贈答の数量統計的研究」の
論文集である。
第一部が贈答のメカニズムの理論的分析 第二部が実態調査の資料をもとにした
実証的な論文という形になっている。
執筆者は序説の伊藤先生を含め11名である。
ちなみに、伊藤先生はこのプロジェクトの運営責任者になったことがきっかけで
贈与交換の研究に深くかかわることになったとのことである
(伊藤幹治 1995 『贈与交換の人類学』「あとがき」)

 

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『贈与交換の人類学』伊藤幹治 著 1995年刊 筑摩書房

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贈与交換の人類学3

 


『贈与交換の人類学』

伊藤幹治 著
1995年刊 筑摩書房

 

1984年の『日本人の贈答』(国立民族学博物館の特別研究)での成果を発展させた研究書である。
レヴィ=ストロースなどの人類学や柳田民俗学から
ヴァレンタイン・デーまでを一貫して考察した労作である
文献目録も詳細に整えられている

 

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『贈答の日本文化』 伊藤幹治 著 2011年刊 筑摩書房

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『贈答の日本文化』
伊藤幹治 著
2011年刊 筑摩書房

 

国立民族学博物館名誉教授である伊藤先生は1930年生れ
この本が出版された時点で81歳!ということだけでも尊敬に値します。
しかし、逆に言うとこの分野には次世代の研究者が
あまりいないということなのかもしれませんが…

内容としては、贈答行為の文化的原理と
日本におけるその特徴及び現状といったところ。
1995年に出版された『贈与交換の人類学』が基本になっているようである。

 

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