『帝国主義と世界の一体化』 木谷勤 著 1997年刊 山川出版社

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『帝国主義と世界の一体化』
木谷勤 著
1997年刊 山川出版社

 

日本が鎖国から海外膨張へと
180度の方向転換をすることになる背景にあった「帝国主義」。
世界の半分が列強の植民地になっていたこの時代に
日本は何が何でもキャッチアップしなければならなかった。
この時代のグローバルな展開から見れば、
260年も日本を統治していた徳川幕府でさえ
地方の島の遅れた支配者に過ぎなかった。
歴史の流れを知っている現代から見れば
維新日本はその始まりから
世界全面戦争を戦うことを運命づけられていたかのように見える。

「帝国主義」の推進力は資本の論理と産業化であり、
それは植民地がなくなった現在も世界を動かし続けている。
ということは100年前の戦争の時代、
主役は帝国主義の国家であるように思えたが、
本当の主役は資本と産業で、
「国家」というのもそれらがつけた
仮面の一つに過ぎなかったということなのだろうか。

今は国家に代わってグローバル企業が舞台の主役である。
今奪い合っているのは限りある世界の土地ではなく、
人々が永遠に続ける<消費>である

 

 

以下、本文より・・・

・地球の総面積の半分以上を占め、
世界人口のほぼ1/3が住む土地を植民地として支配
←1876~1914
・帝国主義最盛期の獲得競争は世界のすみずみに拡がり、
政治的に独立国だった中国・トルコ・イランなど
アジアの旧大陸をも巻き込んだ
・このような帝国主義現象のピークがこの時代になぜ訪れたか。
それには複雑な原因がからんでいる。
まず先進国の経済は1870年代半ばから「大不況」に陥り、
軒並み売行き不振や、価格低下に悩んだが、
そのなかで企業間の競争が激化し、
企業結合も進んで独占資本主義への移行が始まった。
またこれにともない各国では商品や余剰資本を輸出するため
海外市場を求める衝動が強まり、
この競争のなかで今やヨーロッパ第一の工業国になった
ドイツのイギリスの覇権=「パクス・ブリタニカ」への
挑戦が始まった。
・近年注目されるのは、列強の政府・支配層が
国内の階級間・民族間の対立を外にそらすため、
積極的な膨張政策を進めたケースで、
これは「社会帝国主義」と呼ばれている。
・この時代列強諸国民の心をとらえた
排外的ナショナリズムや帝国主義の時代思潮となった
社会ダーウィニズムの影響
・世界の一体化および分裂・亀裂
・1878年イギリスの自由党系一新聞によって
保守党政府の対露強硬外交および国内世論での
「排外的愛国主義(ジンゴイズム)」の風潮を
非難するのに用いられたのが、この言葉の今日の意味での使用例のはじめ
←「帝国主義」
←それまではナポレオンなどの専制的皇帝支配と対外政策に意味
・政治的現象とみなされてきた帝国主義の基礎に、
商品輸出にかわりに資本輸出をさかんにおこなう
最近の資本主義の変質(寄生化・腐朽化)があり、
帝国主義の対外膨張の原動力は
この資本輸出およびそれから利益をえる大金融業者や
投資家の特殊利益であると主張
←J・A・ホブソン『帝国主義論』1902
・レーニンは帝国主義の経済的特徴として、
(1)生産と資本の集中・集積による独占の形成、
(2)産業資本と銀行資本の融合による金融資本の成立、
(3)商品輸出にかわり資本輸出の増大、
(4)国際カルテルによる世界市場の分割、
(5)帝国列強による植民地分割の完了
←レーニン『帝国主義論』1916

・「帝国とは胃袋の問題である。われわれが内乱を望まないなら、
帝国主義者にならねばならない」
←セシル・ローズ 1895
・マグドフは資本主義の膨張、資本主義的「帝国主義一般」の
理念によってたつ基本的命題としてつぎの5つをあげた。
(1)不断の膨張、すなわち資本の蓄積こそが
資本主義の推進力かつ本質である。
(2)資本主義は世界システムとして生まれ、
これが資本主義の構造と発展過程を規定した。
(3)強大な資本主義諸国は世界の他地域に
その生産様式を押しつけ、そこに生み出された
生産と剰余価値の拡大基盤をつうじて、潤い続けた。
(4)世界資本主義システムは、工業諸国と
おもに原料や食品を供給する国々のあいだに国際分業をつくりだし、
この分業には両者のあいだの経済的従属関係がともなった。
(5)資本主義の市場、価格および金融メカニズムは
この従属関係を再生産し続けた
・近代「世界経済」はそれ自体の内的運動によって
不断に膨張しつつ変化する「史的システム」
←ウォーラーステイン
・帝国主義はレーニンやボブソンの考えたような
資本主義の特殊な段階を示すものではなく、
近代「世界システム」をつうじて繰り返しあらわれる
循環現象の一つであった
←ウォーラーステイン
・帝国主義、すなわち強国が国境をこえて
他国あるいは他地域に政治的・経済的支配や影響力を広げ、
それをめぐって国家間の対立が激化する現象は、
本来資本家が国籍に縛られているのに、
資本の利潤追求に国境がなく、
また資本主義経済の分業も国境をはるかにこえた
広がりをもつという近代資本主義固有の矛盾に根をもち、
それが上述の「国際システム」での
「勢力均衡」や「覇権」の交替と連動して
周期的、循環的にあらわれるのであった。
←ウォーラーステイン
・帝国主義をめぐる諸現象、
「独占を創造したり、破壊したりする試み、植民地化を進めたり、
脱植民地化させたりする圧力、覇権国家の興隆と衰退、
これらは資本主義に固有の矛盾から生まれた「循環定数」であり、
それらは「長期的変数」と結びついて
それぞれの時代に特有な展開をとげるのであった。
←ウォーラーステイン
19世紀をつうじて人間の移動や貨物の輸送を促進して、
世界の一体化(グローバリゼーション)に
もっとも貢献したのは大陸での鉄道網の建設と
大洋を駆ける大型汽船の活躍であった。
←1870年21万km、1890年62万km、1910年103万km
・鉄道の建設は沿線農民の田畑や墓地をこわし、
飛脚・車引き・船頭から仕事を奪うなど
伝統社会をゆるがしたばかりか、
輸入された機械製綿糸・綿布は土着の手工業者を圧迫し、
また輸出の茶・絹も鉄道で内陸にやってきた
外国人商人に買いたたかれて、生産者の収入を激減させた。
・イギリス人が「文明の偉大な贈り物」と誇るインドの鉄道
・鉄道の完成をまつあいだも、ベルギー人は
コンゴ奥地の「開発」を進めたが、
コンゴ川の中・上流で彼らが利用した蒸気船―43隻、865トン―
はすべて分解され、陸路を人夫の頭や肩にのせられて運ばれたのであった
・風が頼りの帆船の航海に正確な予定は成り立たないが、
蒸気船ではそれが可能であった。
・このコミュニティの住民の圧倒的多数は
被覆産業で働く労働者および彼らのための
飲食店主・小売店主であったが、
ユダヤ人社会にも時とともに富裕な資本家、
下請け小経営者、熟練工、底辺労働者と階級分化が進んだ。
・もともとイギリス人がインド人労働者を呼ぶのに用いていた
この「クーリー」―語源はヒンディー語―
・19世紀半ば以降アジアから大量の労働力が流出した背景には、
植民地化あるいは半植民地化にともない
「周辺」諸地域に世界市場につながる商品経済が浸透し、
それが景気変動(頻発する飢饉も含み)および伝統社会
の解体を引きおこしたという事情があった。
この変化によりますます貨幣収入を必要とし、
あるいは食べていけなくなった下層民衆は流民化して国内を移動し、
一部はさらに外国にでていった。
・インド人労働者がたまりかねてストライキを起こすと、
それに反対したのはクレーオール黒人労働者で、
労働者のあいだでのこのような民族対立は、
搾取するプランターとの本来の矛盾を覆い隠した。
・「帝国主義」時代、インド人と中国人を中心に
不熟練労働者の大群が、
発達した海上交通によって大陸間をはるばる運ばれ、
「中心」および「周辺」資本の要求に応じて
「中心」-「周辺」間、あるいは「周辺」相互間を往来し、
彼らの血と汗によって「世界システム」の完成
および世界の一体化を支えたのであった。
・資本主義的「世界システム」のもとでの
世界の一体化は「中心」と「周辺」のあいだに
垂直分業をつくりだすことによって
世界に工業化=発展とモノカルチャー=低開発という分裂を生み出した。
この過程で「中心」のヨーロッパ人の心に、
西洋の英知、文明、キリスト教に
その他の世界の無知、野蛮、異教を対置する
区別(差別意識)が根をおろした
・「文明化された人びとと貿易することは
未開人を統治することよりもはるかに有益である」
←親英エリートによる非公式帝国化(米、加、豪を念頭に)
・人種差別にめざめさせられたのはむしろ底辺の労働者であった。
その例をわれわれは、1870年代中国人人口が8%強に達した
カリフォルニア州で、その中心都市サンフランシスコの
労働運動にあらわれた中国人排斥運動にみることができる。
・「民権これ至福なり、自由平等これ大義なり。欧米の専有にあらず」
←中江兆民 欧米人のアジア人への差別
・近代化を始めたばかりのアジアの小国は、
当時世界再分割競争の表舞台中国で帝国主義列強の
「憲兵」の役割をはたしながら強国の仲間入りをしていった
・ドイツ知識人のあいだに深く根をおろした
西欧の「堕落した文明」にたいする
中欧=ドイツの「創造的文化」の優越性というステレオタイプ
・英仏はこうして大戦中、上にあげた数字だけでも
330万人ものアジア・アフリカ人を連合国の
戦争遂行に協力させるため、はるばる異国に運んだ。
・ヨーロッパ戦線で戦った多くの黒人兵は、
フランス市民から受けた好意的な待遇によって
自国の人種差別の不当さにめざめ、
戦争が終わったら不平等と戦う気持ちになった。
・総力戦は、世界各地の民衆を
直接・間接戦争に引き込むことによって
「世界の一体化」をいっそう進めた。
植民地や従属国の名もない民衆が
「民族自決」「自治」を期待して
世界政治の動向に関心をもつことは、
大戦前にはおよそ考えられないことだった。

 


 

 

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