『親族の基本構造』
C.レヴィ=ストロース 著 福井和美 訳
2000年刊 青弓社
「訳者あとがき」や索引まで入れると900ページを越える、なかなかたいそうな本です。
装丁もしっかりとしていて、価格は14000円+税もします。
で、何が書いてあるかというと
<すべては交換である。それも「女」の交換である。>
という
ただそれだけなのですが
そのことを言い切るために
世界中に数限りなく普遍的に存在するインセストの禁忌を調べ尽くした
ので
こんなに長くなってしまいました
ということです。
その一点に還元するためには
それ以外のさまざまな説をひっくり返さなければならない
ので
数学者を呼んできて
ムルンギン型体系の婚姻法則はこの代数じゃ、まいったか!
という華麗で強靭な力技も使うことになりました
(と言われてもよくはわからないんですけどね)
ということです。
逆にいえば
世界の最大の禁忌の体系群を
バラバラにしながら
そのすべて飲み込んでしまう大きな渦の中心
何もないゼロの地点を発見した
とも言えます。
モースは贈与を<全体的社会的現象>と述べましたが、
レヴィ=ストロースはその全体を
さらにまとめて
たったひとつのことにしてしましました。
とても過激な展開のようですが
一事が万事なら万事は一事
ということなのかもしれません。
それにしても、
このただ一点の禁忌に向かう思考の傾斜には、
極めて特別なものを感じてしまいます。
個人的なものと、それに連なりながら、それを突き抜けた力。
それに貫かれた一点。
その思考の傾斜の終わりに現れる「結論」には
こうあります
「人間の思考を知らぬ間にかたどるその力は、
この夢に描かれる行為がいつどこでも文化によって押しとどめられて
一度も現実になされたことがないとの、まさにその事実に根ざす。」
「無秩序への、むしろ反秩序への欲望の、それは絶えざる表現なのである。
祝祭が社会生活の乱脈さを模擬するのは、社会生活がかつてそうであったからでなく、
一度もそうなったことがなく、これからもけっしてそうなりえないからなのだ。」
「いずれの神話も人が自分とのあいだでだけ生きていける甘美な世界、
社会的人間には永遠に与えられることのないその幸福感を、
過去か未来かの違いはあれ、等しくたどり着けない果てへと送り返しているのである。」
レヴィ=ストロース個人が見ようとした文化の果ての果てにある<夢>が、
人類と人類学の見てきた長い長い<夢>と重なり合い
始まりでもあり終わりでもある場所に
この本は生まれたのではないかという気がします。
そして、それは後の『神話論理』の始まりを予感させるものでもあります。
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