『永遠平和のために 啓蒙とは何か 他』
カント 著 中山元 訳
2006年刊 光文社
カントの『永遠平和のために』が出版されてから220年以上が経ち、
世界は多分、当時のヨーロッパよりずっと平和になっている。
厳しい緊張が絶えず発生してはいるものの、
今のところ国家間での戦争らしい戦争はほとんど起きなくなっている。
しかし、現代は220年前には全く予想できなかったほど
複雑怪奇な姿になっていてる。
皮肉にも、カントが戦争を抑止する力になると語った「商業の精神」が原因で、
カントが批判した常備軍とは全く異なる人たちによる殺し合いが起きている。
世界的な貿易の広がりは、世界的な豊かさと世界的な貧しさと、
世界的な武器の流通と、世界的な不安定を生んでいる。
人間の利己心はカントが考えていたよりはるかに巧妙に<進歩>し続けてきたのだ。
にもかかわらずカントは正しかった。
「われわれは〔人間は善き存在になりえないという〕
この絶望的な結論に到達せざるをえない」
と述べていたのだから。
そして、にもかかわらずカントの以下の哲学的結論は変わらないだろう
「法にたいする尊敬の義務を
決して踏みにじらないことを心から確信している人だけが、
人間愛の営みにおいて
慈善の甘美な感情に身をゆだねることが許されるのである。」