近松門左衛門の「曽根崎心中」で有名なお初天神。
正式には露天神社という名前で、
創建が飛鳥-奈良の時代に遡る古い社です。
といっても戦火と都市化に飲み込まれて
文化財的なものはあまり残されていないようです。
長い歴史があるので
その間現在までに
様々な神様や
神様に祀り上げられた人たちが集まって
狭い境内にひしめき合っています。
なので、商売繁盛だろうと恋愛成就だろうと
合格祈願だろうとワンストップで御利益が得られる
都市型コンビニエンスなお社になっています。
(大阪駅から徒歩10分)
それら多くの有難い御利益の中でも高い人気を誇るのが
「お初天神」という通称の由来となっている
「曽根崎心中」物語を核とした恋愛成就。
公式にはまだ神様ではないはずなのに
お初・徳兵衛は
天照皇大神もお稲荷さんも菅原道真公も押しのけて
存在感を示しています。
コンビニで言うと入って左手に
ズラッと並べられている雑誌類のような位置付けです。
「お初天神」はブライダル伝道師の桂由美さんによって
「恋人の聖地」のひとつにも認定されています。
「曽根崎心中」の物語は、現代から見れば人権侵害のオンパレードで、
心中という形を恋愛の<成就>として認めていいのかどうかという
根本的な問題を元禄時代から現在まで引きずっています。
筋立てを現代風に言えば、
食品卸の真面目一筋の課長が
風俗嬢に夢中になって
金銭問題で行き詰って
女を殺して自分も自殺した。
遊び慣れていない男ってダメよね。
というワイドショーネタでしかありません。
しかし、その通俗的で陳腐な物語を
神話の域に仕立て上げたのが
描き方、語り方、演じ方という芸の力です。
元禄の芸能はそれだけ「神業」だったのでしょう。
ということは「お初天神」は
恋愛ではなく
芸能の神様と考えた方がいいのかもしれません。
そんな不幸な恋人たちの
終着点になった「お初天神」ですが、
現代ではそこに華やかな出口が用意されています。
食品卸をクビになっても
現代の徳兵衛なら
人手不足の飲食店で高い時給で働けます。
お初の借金も自己破産で帳消しで、
結婚も個人の自由意志です。
しかし
そんな時代に生まれることのできなかったお初の魂は
今も夜の大阪で
ダイエットや消費者金融の看板の間をさまよっている・・・・
ようにも見える
お初の大きな苦悩のまわりで
現代人の新たな悩みは尽きないようです。
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