大正時代の貴重な人口統計から、当時の社会状況を考える本である。
大正は、明治と昭和というふたつの長く激動した元号に挟まれた、
あまり目立たない時代である。
しかし文明開花の日本が真に都市化と近代化に
塗り替えられたのがこの短い時代のことである。
そして大正元年は1912年、既に20世紀に入っていた。
この時期、日本は農業を基盤とした社会から
工業を基盤とした社会に転換している。
全国に鉄道網が完備され都市の人口は急激に増えた。
人々は新聞や雑誌を読み都市の一個人となる。
夜が明るくなり伝統的な家族像がかすれてゆく。
国家が都市の個人と核家族を中心に
再編されてゆく時代である。
もちろんそれがすべてになったわけではないが
その基盤は出来上がっていた。
今考えるとこの時から昭和の総動員戦争への歯車が
逆戻りできない形で確実に回されていったように思える。
“『大正デモグラフィ』速水融・小嶋美代子著 2004年 文春新書” への1件のフィードバック