『近代技術と社会』 種田明 著 2003年刊 山川出版社

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身分制度を含む安定した世界観に支えられていた中世や非近代世界は
実利を前面に押し出した義理も人情もないスッキリとした
騒々しい近代に置き換わっていく。
その観念体系が入れ替わりを<革命>と呼ぶ。
大抵の場合、その観念の体系は人間によって表現されているので
観念が入れ替わると人間も入れ替わることになる。
入れ替えられた古いタイプの人たちには石が投げられたり、
場合によってはその人たちが死刑になることもある。
それは太陽の復活のために生贄の心臓を捧げたり、
前王朝の一族や家臣たちを皆殺しにしたりする光景と重なるように思える。
そうやって定着した近代以降の人々は
プリミティブな心に、合理性に貫かれた技術を接ぎ木した
ハイブリッドな存在である。

近代技術には国境も民族も思想信条もほとんど関係はない。
自由でオープンでニュートラルなものである。
その意味で今の人類は近代技術を基礎にした
たったひとつの大きな<民族>であり<国家>である。
ただしその内輪もめは合理的な技術に貫かれた
スッキリと徹底したジェノサイドになる。

 

 

 

以下、本文より・・・

 

・「技術」→西周による翻訳語
・各国が産業技術力を認識し科学政策に取り組みはじめ、
軍事費の増加に比例して有力大学に理工系の
学部・実験室を備えていく時期が1880/90年代
・科学と技術の研究と産業の
「巨大化、国際的な規模での競争の出現、
これらは19世紀末から20世紀初頭にかけて
人類がはじめて直面した新しい経験だった」
・13・14世紀の中世都市が、
競って機械時計を備えた塔楼建設に向かったころを
社会生活のテンポ変化の第一波とすると、
時計・工場制度・交通機関の普及による第二波、
19世紀の変化のすごさが想像できよう。
・国際標準時の制定は、機械的周期が
有機的で機能的な周期にとってかわったことの象徴であり、
いうならば最初の「グローバル・スタンダード」であった。
・定期刊行物―季刊雑誌、月刊、日刊、
ついには時刊制の刊行物までも―
が民衆の膨大な需要に応じた。
→マンフォード『技術と文明』
・イノベーションという言葉には
「育種・品種改良、特に植物の接木栽培による新種の育成」の意味
・近代社会におけるイノベーションは、
生活の側面からみると、消費生活の誕生と同時に誕生し、
農業分野から新旧の全産業へ波及していったのである
・シュンペーターは、イノベーションを
1 プロダクト・イノベーション
2 プロセス・イノベーション
3 新販路開拓
4 原料・半製品の新供給源の獲得
5 新組織制度・システムの創設
の五つに分け、この五つは総体として
技術と経営がまじわる重要な分野であるとした
・「ある発明」あるいは「新しく開発された技術」が市場商品化するまで、
17世紀までは100年以上、18世紀においては約100年、1850年で82年、
1900年で32年、1950年で15年、1975年で3~4年であった。
現在では、ゲーム機や携帯電話など、
ものによってはわずか半年というものもある。
この時間間隔、スピード感覚の違いが世代間の感覚のズレとなって、
社会と生活世界に影響をおよぼしている
・神子畑鋳鉄橋と羽淵鋳鉄橋
→現存する日本最古の全鋳鉄の橋 明治16-18(1883-1885) 鉱山用
・近代社会は、人びとを宗教・身分・熟練(無理へんに拳骨)の束縛から解放し、
消費社会と列強のパワー・ポリティクスから国民がえられる「利益」、
すなわち政治的・経済的打算へと向かわせた
・「未開民族を例にとれば、文化的特徴としては、
言語のほかに、食糧生産、婚姻形式、信仰、
土器・羽矢の製作技法、織物の技術などがある」。
そして近代にいたり、西洋文明が工業技術(科学技術)を産み出し、
人類全体に共通する文化財として世界中に伝播したのである。
・要するに、未開文化というのは平等社会の産物といってもよいだろう。
・・・・これに対して、文明は、階層化された社会
―つまり、集団間に大きな格差があり、
したがって緊張関係が変化してやまない社会―
にその基盤をおいているのだ
→レヴィ=ストロース
・技術―科学技術・社会技術・経験技術―は社会に作用し、
社会はそれを受けてさらなるつぎの選択をおこなう、
という回路ができあがったのが近代であった。

 

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