『超孤独死社会』菅野久美子 著 2019年刊 毎日新聞出版

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孤独死と特殊清掃の現場を追ったルポルターシュ。

 

社会とのつながりを失い、セルフネグレストからゴミ屋敷化して、その中で生活し死を迎えるという姿は、世界で最も劣悪な生活環境の一つであろう。

その現場に遭遇したら、抗争中のマフィアたちでもたじろぐだろうし、スモーキーマウンテンの子供たちでもあきれるだろうし、テロリストたちも神に祈るだろう。

その現場は想像を絶し比類がない。

 

そこに見られるのは、社会から切り離された人間がどのような姿をしているのか、である。

マフィアにもテロリストにもゴミ捨て場の子供たちにも<社会>はある。しかし孤独死の現場にはそれがない。

そこにあるのは社会的には何者でもない者の<閉じこめられたプライバシー>である。

誰もがこの上なく尊重する個のプライバシーは、実はあまりに醜悪なために誰もが隠しあっているものなのかもしれない。

その姿は社会問題を突き抜けて、「人間とは何か」「社会とは何か」という哲学的課題に突き当たる。

そこでは、サルトルもフロイトもアーレントも絶句するしかないだろう。

 

そしてその現場は、アパートの壁1枚を隔てただけの隣室にある。

床の下にはごみの中で窒息死した亡者の奈落がある。

天井が抜けて蛆とゴミと死体が降って来るかもしれない。

 

さらに驚くべきことに、昼間は普通に職場で生活し、夜はゴミ屋敷で生活している人もいる!人間は自らを完全に二重化できるのである。

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