『隷属なき道』 ルトガー・ブレグマン 著 野中香方子 訳 2017年刊 文藝春秋者

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隷属なき道
ルトガー・ブレグマン 著 野中香方子 訳
2017年刊 文藝春秋者

 

 

ベーシックインカムそのものは、政策として
極めて重要な選択肢のひとつだと思う。
決定的に革命的な一手であるだけに
指すことが極めて困難な手でもある。
その政策によって社会がどう変化するかを
考えるだけの想像力を人々はもっていない。
想像もできないことを実行はできない。
もちろんこの本に書かれている根拠だけではまったく不足である。
冷戦時代のニクソンの考えが現在に適用できるとは思えないし、
スピーナムランド制度の報告書が正しいかどうかも
ベーシックインカムの実施に直接関係しない。
フォードやケロッグが仕事のない従業員に賃金を保証したわけでもない。
周辺的な、状況証拠のようなものをいくら繰り返しても
説得力が増すわけではない。
それでも、想像することすらできないことを、
議論や社会実験を通して次第に思い描けるようになっていく
きっかけの一つをつくるという意味で、
少々冗長なこの本も有用である。

 

 

以下、本文より・・・

・この時代の、そしてわたしたちの世代の、真の危機は、
現状があまり良くないとか、先々暮らしぶりが悪くなる
といったことではない。
それは、より良い暮らしを思い描けなくなっていることなのだ。
・「人間が幸せでいるためには、あれやこれやの楽しみばかりでなく、
希望や冒険心や変化が必要だ」
「求めるべきは、完成したユートピアではなく、
創造と希望が生きて動いている世界である。」
←バートランド・ラッセル
・資本主義だけでは、現代の豊穣の地を維持することはできないのだ。
進歩は経済的繁栄と同義になったが、
21世紀を生きるわたしたちは、
生活の質を上げる別の道を見つけなければならない。
・「ホームレス対策費の最も効率的な使用法は、
彼らにそのお金を与えることだ」
←『エコノミスト』誌
・万人向けの無条件のベーシックインカムは、
万人の支持を得るはずだ。
結局のところ、皆が恩恵を受けるのだから。
・「これまでの手法を一気に変えるのは難しい。
これらの実験的研究はわたしたちに、
違った話し方、違った考え方、
その問題に対する違った表現の仕方をする機会を与えてくれる…」
←ホームレスの救援活動家
・社会保障制度は、人々の安心感と誇りを促進すべきものだが、
疑念と屈辱のシステムに成り下がっている。
全ての人に公平に給付するというベーシックインカムのシステムは、
よりよい妥協策となるだろう
・つまりこの社会には監督者のための監督者がいて、
監督者を監督する監督者のための道具を人々は作っているのだ。
人々が本来なすべきことは、学校へ戻り、
生活のために稼がなければならないとか
誰かから告げられる前に自分が何を考えていたかを考えることだ。
←リチャード・バックミンスター・フラー(1895~1983)
・「比較的裕福な国々でも、収入の不均衡は、暮らしを不幸にする」
・「貧しい人々は絵の中の影のようなものだ。
なくてはならないコントラストを提供している」
←フィリップ・エッケ(フランス人医師 1661~1737)
・ある人の損失は別の人の利益になる。
←重商主義
・1960年代から70年代になると、
歴史家らはスピーナムランド制度についての王立委員会の報告書を見直し、
そこに記された報告書の大半が、
データの収集前に書かれたものであることを突き止めた。
・精神疾患や肥満、汚染、犯罪は、GDPの観点からは、
多ければ多いほどよい。
そのことは、一人当たりのGFPが世界で最も高いアメリカが、
社会問題でも世界のトップに立っている理由でもある。
・GDPは社会福祉の正確な測定基準になるという考えは、
わたしたちの時代に最も広がった神話のひとつだ。
・工場やコンピュータが効率的になればなるほど、
医療や教育はますます非効率的になる必要がある。
・「生産はロボットにまかせておけばいい。
人間は時間を浪費したり、実験したり、遊んだり、
創造したり、探検したりすることに秀でているのだから」
←ケビン・ケリー(文筆家)
・GDPは戦時における国力の優れた指標であった
・1300年頃のカレンダーには、休暇と祭日が溢れていた。
ハーバード大学の歴史学者で経済学者でもあるジュリエット・ショールは、
当時は一年の三分の一以上が休暇だったと見積もっている。
驚くべきことにスペインではしれが5ガ月、
フランスでは6カ月に近かった。
・フォード、ケロッグ、ヒースが発見したのは、
生産性と長時間労働に相関性はない、ということだ。
・19世紀末には、一部の国の労働時間は
すでに60時間に下がっていた。
・ヘンリー・フォードは1926年、
史上初めて週五日労働を実施した。
・1980年代、労働時間の減少傾向が止まる。
アメリカでは、むしろ労働時間が増えた。
・経済成長はさらなる余暇と消費を生み出したが、
80年代以降に増えたのは主に消費だった。
そして消費の流行は借金によって続いた。
・「仕事とは他になすべき持たない人々の逃げ場である」
←オスカー・ワイルド(1854~1900)
・高額所得者に高い税金を課せば、
「才能ある個人を、負の外部性をもつ職業から、
正の外部性をもつ職業に再分配」できる。
税金を高くすれば、有益な仕事をする人が増える。
・「目指すべき未来は、全員の失業だ。
そうなれば、誰もが遊んで暮らせる」
←アーサー・C・クラーク(1917~2008)
・「ロボット」という言葉は、「骨折って働く」という意味の
チェコ語robotaに由来する。
・フランツ二世が反対した結果、19世紀まで、
オーストリアの列車は馬が引いた
・金銭(ベーシックインカム)、時間(労働時間の短縮)、
課税(労働に対してではなく、資本に対して)を再分配し、
もちろん、ロボットも再分配する。
・「資本主義を資本主義者から守らなければならない」
←ピケティ
・マイクロクレジットについては心温まる
さまざまな逸話が語られてきたにもかかわらず、
それが貧困や疾病との闘いに役立つという
確かな証拠はないことを明らかにした。
現金を与えた方が、結果はよかったのだ。
←エスター・デュフロ インドでのRCT(ランダム化対照試行)
・第一次世界大戦以前、国境は地図に引かれた線に過ぎなかった。
パスポートを発行する国は少なく、発行する国
(ロシアやオスマン帝国など)は、遅れた国とみなされていた。
・豊穣の地の貧困線は、外の荒野での貧困線の17倍も高い位置にある
・米国で1975年から2015年までの41年間で、
9.11を別にすると外国生まれのテロリストに殺されたのは
わずか41人。平均すると1年に1人だった。
・難しいのは、新しい考えに馴染むことではなく、
古い考えから抜け出すことだ。
←ケインズ(1883~1946)
・『予言がはずれるとき』
←レオン・フェスティンガー(勁草書房 1995年)
・「認知不協和」
・わたしたちは自らの世界観を改めるより、
現実を再調整するほうを選ぶのだ。
のみならず、それまで以上に頑なにその世界観を信じるようになる。
・賢い人々は、正しい答えを得るために自分の知性を使うのではなく、
答えであってほしいものを得るために用いる
←エズラ・クレイン(アメリカのジャーナリスト)
・それはあらゆる手段を尽くして守られている砦であり、
外からかかる圧力があまりに強くなると一気に崩壊するのである
・「危機(crisis)という言葉は古代ギリシャ語の、
「分離」、「ふるいにかける」という単語に由来する。
・どれだけ歩いても、決してたどり着けない。
では、ユートピアに何の意味があるのだろう。
答えはこうだ。歩き続けよ。とそれは教えてくれるのだ。
←エドゥアルド・ガレアーノ(1940~2015)
・最大の後悔は、「他人がわたしに期待する人生ではなく、
自分のための人生を生きればよかった」というもの。
二番目は、「あんなに働かなければよかった」である。

 

 

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