『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫 萱野稔人 著 2010年刊 集英社 

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超マクロ展望 世界経済の真実
水野和夫 萱野稔人 著
2010年刊 集英社

 

少々安易なタイトルにも思える『超マクロ展望 世界経済の真実』。
<超マクロ>ということで、
話は封建制の行き詰まりから現在の量的緩和にまで及びます。
これはエコノミスト出身の経済学者である
水野氏の経済論をなぞるものでしょう。
それを政治や権力システムの面から萱野氏が補う形です。
饒舌な萱野氏ですが、自分より一回り以上年上の大学の先輩の前では
遠慮気味にみえます。
400年前の世界経済から10年後の日本経済の答えを導き出すのには
無理がありますが、水野氏の話は興味深ものです。
逆に100年単位の節目なら、10年前のことは参考になりませんから、
超長期から短期までバランスよく見ていくことも必要でしょう。
経済の話は、今日明日の稼ぎに直結するので、
どうしても近視眼的になりがちです。
でも、そこから離れないと見えないことも多くて、
見えないと猛スピードで突進してクラッシュしてしまいます。
クラッシュしても何度でも立ち直るのほど逞しいのが
資本主義なのかもしれませんが、
それを制御するシステムが資本主義の中に組み込まれていないのが
恐ろしい事でもあります。
資本主義は不死鳥であっても、
その事故に巻き込まれる人間は不死身ではありません。

 

 

以下、本文より・・・

・水野:新興国や途上国などの周辺国では、
東インド会社の時代から1960年代まで
交易条件は下がりつづけました。
先進国が安く原材料を仕入れて高く完成品を売る一方で、
周辺国は高い工業品を買って安い原油を売る。
会社で100年もこんなことをやっていれば・・・
・水野:日本では、95年度から08年度にかけて、
大企業製造業の売上高が43兆円増えました。
ところが変動費は50兆円も増えてしまっています。
萱野:資源価格の高騰によって景気と所得が分離されてしまった
水野:先進国は交易条件が悪化したことで、
実物経済では稼げなくなってしまった。
そこで金融に儲け口をみいだしていく。
水野:アメリカの労働人口のうち、
金融機関で働いている人は5.3%しかいない。
つまり20人中1人の人が利益の半分を稼いでいるということです。
・萱野:1974年を境にして、世界資本主義そのものの
大きな構造転換がはじまった。
・水野:価格決定権をアメリカが取り返そうとして
1983年にできたのが、WTI先物市場
・水野:石油の先物市場をつくるということは、
石油を金融商品化するということ
・萱野:先物取引というのは相対取引で何度もやりとりしますから、
取引量だけみると1億バレル以上になる
・萱野:イラク戦争とうのは、イラクにある石油利権を
植民地主義的に囲い込むための戦争だったのではなく、
ドルを基軸としてまわっている国際石油市場のルールを守るための戦争
←イラク 石油取引をドルからユーロへ
・萱野:いまや、世界を覆う経済的なシステムを維持するために
軍事力がもちいられるようになった。
・水野:軍事力行使の目的が、陸地の獲得やコントロールから、
経済システムの管理へと変わってきた
・萱野:脱領土的な覇権の確立、これがおそらく
グローバル化のひとつの意味なのです。
・萱野:今回の金融危機へと至るまでの過程とは、
じつはドル対ユーロの潜在的な戦いの過程だった
・萱野:グローバルな経済空間を支配することで、
各国の領土主権を無効化する。
そうした方法で覇権を確立していった。
萱野:世界資本主義の歴史におけるヘゲモニーの変遷をみると、
覇権国のもとでの生産システムがいきづまると
金融化がかならず起こってくる、と。
要するに、覇権国の経済が金融化していくときというのは、
そのヘゲモニーが終わりつつある時期なんだと。
・萱野:イギリスは海という新しい空間に
新しいルールを設定することでヘゲモニーを確立した
・萱野:どの国家にも属していない海洋を、
結局はイギリスだけに属するものにしてしまった
・萱野:海やその先にある陸地は
ヨーロッパのルールが適用されない空間なので、
そこでは軍事力による自由な略奪戦がおこなわれ、
最終的にそれを制したイギリスが世界資本主義のヘゲモニーを獲得した
・萱野:「平滑空間」というのは、
そうした条里空間の「法」を無化してしまうような空間のことです。
条里空間における区画を無化するような、滑らかな空間
・萱野:平滑空間は条里空間の方を無化するとはいえ、
それはあくまでも条里空間とは別のルールや空間活用法を
そこに対置することによってです。
・水野:歴史の断絶点は、産業革命の18世紀よりも
空間革命の16世紀とみたほうがよい
・萱野:人類ははじめて空を飛んでから
わずか66年で月までいってしまった
・萱野:アメリカは、空を軍事的に支配しながら
ドル基軸通貨体制を守り、
そのもとでの自由貿易市場の管理者となることで、
世界資本主義のヘゲモニーを確立してきた
・萱野:世界中の生産力を吸収し、高い利潤率のもとで
リターンをもたらしてくれる場所が世界から消失することになる。
それこそ資本主義の根本的な危機が訪れます。
・水野:資本主義は民主主義と一体化するといわれていますけれど、
一体化するのは市民革命以降です。
・水野:16世紀の国王(=資本家)と国家の関係が
そっくり国民にとって代わられた格好です。
・萱野:資本主義以前の社会において
略奪は第一級の経済活動であったのと同じように、
資本主義においても略奪というのは本質的なファクター
・萱野:暴力を背景にして人びとの労働を支配していた主体が、
資本主義社会の進展によって、
一方は暴力を専門的に担う主体(つまり国家)へと、
もう一方は労働を管理する主体(つまり資本家)へと分離してきた
・萱野:資本主義のもとでは、政治の領域と経済の領域のあいだで
役割分担が確立してくる
・萱野:資本主義社会ではどれほど経済活動が
政治から離れてなされているようにみえても、
だからといって市場経済だけで資本主義が成立していると
考えることはできない
・萱野:市場というのは所有権にもとづいて交換がなされたり
資本蓄積がなされたりする場所ですが、
国家はその所有権をこえて人びとからお金を集めることができる。
・水野:13世紀から資本主義経済が誕生する直前の15世紀までの中世では、
歴史学者のブローデルが「労働者の黄金時代」とよんでいるように、
農業の技術革新によって農民の実質賃金が伸びていきました。
・水野:利潤率というのは長期的にみれば
利子率とほぼイコールになりますから、
利潤率の低下は利子率の低下としてあらわれる
・萱野:それで封建領主たちは土地の支配者であることをやめていくんですね。
言いかえるなら、土地の所有が政治的な支配から切り離されていく。
これによって政治と経済のあいだの分離が進行していくのです
←農民の実質賃金の上昇
・萱野:封建制のもとでは、領主による土地の所有は、
領主と農民のあいだの主従関係に依存していました。
・萱野:土地の所有が政治的な支配関係から切り離されると、
その土地の所有権はそうした社会関係には依存しない
純粋な私的所有権となる。
・萱野:土地を資本として活用することへの道
・水野:中世後期は労働者の黄金時代であると同時に、
支配層にとっては最大の危機でした
・水野:「この(封建社会の)危機を脱するには、
徹底した社会変革以外の方法はありえなかった(中略)
その道こそは、余剰収奪の新たな形態である
資本主義的世界システムを創造することにほかならなかったのである。
封建的生産様式を資本主義的生産様式に置き換えるというのが、
領主反動の実体だったのである」
←ウォーラスティン『近代世界システム1600-1750』
・水野:ハプスブルク家のように、
何百人といる貴族が一人の国王を盛り立てて、
小さな封建単位から大きな国家単位へと移行していく。
こうして封建貴族たちは土地の支配者であることをやめていく
・萱野:近代の資本制というのは封建制に対立するものというよりは、
封建制が機能不全になったのを乗り越えようとすることで生まれてきた
・萱野:所有権を特定の社会関係から切り離し、
そのもとで労働を組織化する新しい原理をあみだしていったのが
資本主義だということですね。
そこでは国家は所有の主体であることをやめ、
純粋な私的所有の空間を法的・行政的にマネージしていく主体になっていく
・萱野:ノルベルト・エリアスは、封建的な政治単位が近代において
もっとも広い単位へと統合されていった要因について、
ふたつのことを指摘しています。
ひとつは貨幣経済の広がりであり、もうひとつは軍事技術の発達です。
・萱野:中世も後期になり貨幣経済が発達すると、
国王は俸禄として貨幣を与えるようになる。
この時期、国王になるような有力な封建領主は、
広範な支配権のもとでいち早く市場経済にむすびついて
貨幣を蓄積するようになる
・萱野:銃をもたせた歩兵部隊をみずから指揮することで、
戦士貴族たちを相対的に無力化し、
彼らの独立性をなくしていくことに成功する
・萱野:戦争はどんどん警察行為に近づいているんです。
これをシュミットは世界内戦とよびました。
・水野:アメリカのなかをバブルにして、
それからアメリカが外国に投資するときは相手国をバブルにして、
海外から調達したお金をつかって高いキャピタルゲインを
得ていこうというものです。
こうして、おたがいバブルに依存しあう構造が生れていったんです
←ルービン財務長官(アメリカ)の「強いドル」政策
・水野:「日本のバブル経済とは、
冷戦にとどめを刺そうとしていた米国の覇権を
裏から支える国際政治的意味合いをもっていた」
←『通貨燃ゆ』谷口智彦
・水野:レーガノミックスで対ソ軍拡競争にアメリカが勝ったから、
もう日本の土地バブルは必要ない
・水野:日本のバブルは、レーガノミックスが
財政赤字を拡大させながら
ソ連と軍拡競争をやっていたときに起きたもの
・萱野:市場の矛盾は国家が引き受けざるをえない
・水野:低成長を前提とした脱近代的な社会システムをつくらないかぎり、
財政赤字などの問題はおそらく根本的には解決されない
・水野:量的緩和をしたところで、円は国内にとどまらない
・水野:インフレは貨幣現象だというテーゼは
国民国家経済の枠内でしか成立しない。
・水野:95年から日本のデフレ時代がはじまります。
まさに鉱物性燃料輸入金額のGDP比率をおさえることができなくなるほど
原油価格が上昇してしまったために、日本のデフレがはじまったのです
・萱野:われわれはルール策定がいかに富をもたらすかという
資本主義の基本に立ち返るべきなんですよ。
ちょうど環境規制が特定の技術に市場価値をあたえるように、
四条のルールというのは技術的なり知識なりを活かす
知的フレームのことにほかなりません。
そうしたいわば「知を活かす知の戦略」の重要性に
われわれはもっと敏感にならなくてはなりません。
・萱野:規制やルールにおける合法性の最終的な源泉は
あくまでも国家でありつづけるんですが、
ルール策定の過程にさまざまなエージェントや
オピニオンがかかわるようになるという点では、
国家の境界はあいまいになっていくのです。

 

 

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