『ブラジルへの郷愁』 C.レヴィ=ストロース 著 川田順造 訳 2010年刊 中央公論新社

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ブラジルへの郷愁

 

『ブラジルへの郷愁』
C.レヴィ=ストロース 著 川田順造 訳
2010年刊 中央公論社

 

レヴィ=ストロースが「悲しき熱帯」ブラジルに滞在していた
1930年代に撮影した写真集

地面の上に裸で寝るナンビクワラの人たちの表情はこの上なく魅力的であり、
それは1万年変わらない人間の姿でもある
人類学者レヴィ=ストロースの基点はおそらくここにあるのではないかと思う。
裸以外の持ち物がない頃から、人類の原点には<女性>の交換があった…
その直感と確信、たったそれだけのことを、
自らの持つありったけの知識とレトリックと強引さで
あれだけの研究に仕立ててしまうところが
レヴィ=ストロースの魅力であり
開いた口が塞がらないほどの壮絶さなのである。

 

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『サンタクロースの秘密』 C.レヴィ=ストロース 中沢新一 著 1995年刊 せりか書房

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サンタクロースの秘密

 

『サンタクロースの秘密』
C.レヴィ=ストロース 中沢新一 著
1995年刊 せりか書房

 

クリスマスの本なので12月5日に出版されています。
赤の帯に「思想のプレゼント」と記して
クリスマスカラーを演出。
そして店頭に山積み。
すると意外と売れて急遽増刷。
でもよく見ると、100ページくらいの小さな本なのに
当時の価格で2000円…
…「思想のプレゼント」はタダではない。

内容は、レヴィ=ストロースと中沢新一の共著、というわけではなくて、
レヴィ=ストロースが1952年にちょっと書いた論文を前半に置いて、
それをもとに後半を中沢がちょっと書いて一丁上がり。。。
それで2000円
なかなか上手い企画だが…
…「思想」は衝動買いするものではない。

この本が20世紀を代表する偉大な人類学者
レヴィ=ストロースを知るきっかけになれば、
という言い方もできるかもしれないけれど、
この本の内容から
『親族の基本構造』や『野生の思考』までは
あまりにも距離がある。

…結論:「思想のプレゼント」というのは、
少なくともこの本の宣伝文句としては不適切。
上手い企画ではあっても良心的とは言い難く、
「思想」と「商売」の橋渡しをするべきところを、
その間の亀裂を際立たせてしまったように感じる。

 

 

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『レヴィ=ストロース』 E.リーチ 著 吉田禎吾 訳 2000年刊 ちくま学芸文庫

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リーチレヴィストロース

 

『レヴィ=ストロース』
E.リーチ 著 吉田禎吾 訳
2000年刊 ちくま学芸文庫

 

神話の「構造」がわかっても神話の面白さはわからないように
レヴィ=ストロースの「構造」だけを取り出しても
レヴィ=ストロースの魅力はわからない。
という「構造」の限界がわかる本である。
この本でリーチの分析の鋭さはすごくよくわかるのに
レヴィ=ストロースの魅力は不思議なくらい伝わってこない。

 

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『赤ちゃんの歴史』 入来典 著  2000年刊 鳥影社

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赤ちゃんの歴史2

 

『赤ちゃんの歴史』
入来典 著
2000年刊 鳥影社

 

16~18世紀を中心にヨーロッパと日本の
赤ちゃんについて書かれたものである。
出産から新生児、乳幼児の扱われ方、
未熟児や奇形児の問題まで取り上げられている。

出産の問題は同時に女性の社会的地位の問題でもある。
生まれてくるときは間引きの対象となり
生まれれば売られる対象となり
産むようになれば命の危険にさらされ
場合によっては見世物にもされ
産ませる産婆は魔女として処刑される
というのがかつての女性の生であった。
今でも地球上のかなりの地域で
それと同じようなことが続いている。

どうして出産という重要な役目を担ってきた女性の立場が、
地球上のあらゆる地域でほとんど普遍的に弱いのか、
あるいは弱くなってしまったのか。
おそらく<女性の交換>と深くかかわるのであろうこの問題は、
解くには大き過ぎる人類史の謎のひとつであるように思う。

 

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『金融の世界史』 板谷敏彦 著  2013年刊 新潮選書

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金融の世界史

 

『金融の世界史 ~バブルと戦争と株式市場~』
板谷敏彦 著
2013年刊 新潮選書

 

まだ貨幣がなかった太古にも金融は存在し、
貨幣がなくなってしまうであろう近未来にも金融は残り続ける。
だとすれば、長い長い人類史の中で
金融が<お金>のことであったのは
ほんの僅かな期間でしかなかったことになる。
<お金>のない「金融」というのは意味として成立しないので、
この場合「金融」とは<数値化された権力>
と 読み替えるのが適切なのかもしれない。
さらにそれは<人の力を集める力、あるいは方法>の
大規模な展開の連続であるとも言えるだろう。
人々のつながる信仰が神を生み、神が金や銀やダイヤモンドや紙になり、
今は電子の相互承認という信用が人々をつなぐようになっている。
人々の気持ちを融かしてひとつにするのが「融」の意味で、
<お金>とはその始まりから終わりまで
ずっと人々の心を象った人類自身の肖像なのだろう。

 

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模型の聖域 ~平安神宮~

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平安神宮21 平安神宮26 平安神宮19

 

明治28年に開催された第4回内国勧業博覧会in京都岡崎の

モニュメントとして建てられた平安宮の巨大模型、

そこに平安京への遷都を行った

桓武天皇をお祀りして平安神宮はできました。

 

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近代権力によって近代京都の中の近代博覧会の中に作られた

古代京都の中の古代宮殿の中の古代権力によって

近代に権威づけられた聖域

という

胡散臭いとまでは言わないまでも

ちょっとややこしいスタイルで

平安神宮は成立しています。

そしてその近代の中の古代の中に

さらに

近代の始りを告げたチンチン電車が鎮座しているという

近代日本らしいハイブリッドぶりがユニークです。

 

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さて、そんな平安神宮は

国際観光都市京都の人気スポットのひとつで

絵馬も国際色豊かです。

 

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平安神宮33

 

京都の神様は世界中の言語に堪能でなければならなくて、

さらに様々な難しい願いにも耳を傾けなければなりません。

 

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<楽してお金持ちになりたい>

その願いはよくわかる。

でもそれは

その前に書かれている願いと両立させることができない。。。

そしてよく見ると文も難解で。。。

。。。エゴとエスとスーパーエゴが混沌とする

人間の願望の深淵を覗くような祈願です

 

 

 

ファッション原論 ~京都市動物園~

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京都市動物園2

京都市動物園4 京都市動物園5 京都市動物園39

 

今年の流行が何色だとか

誰それのセンスがどうだとか

どこそこのブランドが何だとかかんだとか

人間世界の些細な心配事とは無縁に

動物たちの着こなし身のこなしは美しい。

 

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京都市動物園9 京都市動物園8 京都市動物園10

 

それは着替えることのない生存の在り方の表現で、

 

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肌を脱いでも同じ肌で

 

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ただ黒くてぶら下がっているだけでも

 

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ただ無造作に置かれているだけでも

 

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だだ寝そべったり、寝そべったり、寝そべったりしているだけでも

 

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こんなに小さくても

どれもがだれもが見事である。

 

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目が大き過ぎたり

 

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耳が大き過ぎたりするのは

悪魔のようにかわいい。

 

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ヒョウ自身(ジャガー)によるヒョウ柄はこの上なくセクシーで

 

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檻の中に閉じ込められていても

お仕着せではない森の王者は

裸の王様に落ちぶれることはない。

 

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毛づくろいのやり過ぎで

人間はすっかり裸に「進化」して、

その進化の原罪を贖うために

今年の流行が何色だとか

誰それのセンスがどうだとか

どこそこのブランドが何だとかかんだとか

些細な心配事を無限に繰り返すようになった。

 

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そして今は

どんな生物にも似ていない

こんな鉄の殻を被って生きるようになったとさ。

 

めでたし、めでたし。。。

水の近代 ~琵琶湖疏水記念館~

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琵琶湖疏水69

 

幕末の内戦状態から東京奠都、それに続く近代化の出遅れによって

没落一方のノスタルジックな都であった明治の京都は

なんとか町おこしをしようと琵琶湖疏水を通しました。

 

琵琶湖疏水42 琵琶湖疏水46 琵琶湖疏水43

 

閉塞状況の古い都に琵琶湖から新しい水を注ぎ込み

それを灌漑や生活用水だけではなく

水運や工業や発電にも利用して

京都をモダンな都市に変えようということです。

 

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(従滋賀県近江国琵琶湖至京都水路目論見実測図)

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そして水の近代化は緻密な計画と精密な測量に始まり

 

琵琶湖疏水15

 

こんな感じで危険な難工事に挑み

 

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がんばって

 

琵琶湖疏水13

 

がんばって

 

琵琶湖疏水14

 

がんばって

 

琵琶湖疏水19

 

5年で到達しました

 

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そして、日本で初めての本格的な水力発電をして

 

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日本で初めて電車が走りました。

 

それから琵琶湖疏水の近代性を象徴するもののひとつとして

インクライン(傾斜鉄道)というものがあります。

 

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落差の大きく舟の行き来ができない水路の横に線路を引いて、

台車に載せた舟をケーブルで引っ張ったものです。

その動力も疏水の水力発電によるものでした。

水力を電気に変えて水運の動力にするという

とてもエコでモダンでナイスなアイデアです。

 

琵琶湖疏水23

 

当初はモダン・ハイブリッドであったインクライン舟運も

慌ただしい昭和の時代になると

すっかり時代遅れになって廃れましたが

今は産業遺産として復元されています。

 

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明治にイギリスから輸入されていた古いレール。

1887年BARROW STEEL社製という刻印が見られます。

イギリスが工業国として光輝いていた

130年前のものです。

 

琵琶湖疏水30

(復元のため幅や高さが揃わなかったようです)

 

 

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インクラインを利用する舟の待合場所であった船溜は

今は様々な水鳥たちとって居心地のいいたまり場になっていてます。

 

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琵琶湖疏水7 琵琶湖疏水6 琵琶湖疏水3

 

そしてその鳥たちの一部は

さらに居心地のいい隣の動物園で飼われていたりします。

 

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京都銀行 新春経済講演会

 

京都銀行さん主催の講演会に行ってきました。

 

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みやこめっせ9 みやこめっせ1 みやこめっせ5

 

場所は京都のみやこめっせ(京都勧業会館)

ご講演はテレビや新聞や政府の諮問会議など

あらゆるところで引っ張りだこの伊藤元重先生。

 

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会場では銀行の支店長さんたちや役員さんたちが

ずらーーーっとならんでお出迎えです。

たいへんありがたいことではありますが

ちょっと雰囲気が重苦しいので

新春のみやこらしく

振袖の方にも並んでいただけると

より素敵な雰囲気になるでしょうね。

 

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とても広い会場で、アルファベット順にブロックが分けられていたのですが

26文字で足りなくてZの次に50音順が続いていました。

(最初から50音順にすれば足りるのですが…)

 

みやこめっせ7

 

みやこめっせ10

 

そんな広い会場でも

3000人もの人が入ると息苦しいくらいになります。

(こういう場所はいつもおじさんばかりです。自分も含めてですが)

 

さて、講演の内容ですが、

技術革新の速さ、特にAIとフィンテックを中心にお話されていました。

昨年話題になり、今年も加速するであろう方向性を

わかりやすくまとめておられました。