「 ギフトのパンセ 」記事一覧

2017.09.26 パンセの書庫

『帝国の昭和 日本の歴史23』 有馬学 著 2002年刊 講談社

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帝国の昭和 日本の歴史23
有馬学 著
2002年刊 講談社

 

技術革新、量産技術、大衆化、身分階層の崩壊、都市化、個人、
徴兵制度、マス・メディア、モダン、民意、国民感情、
食糧生産性向上、植民地、農産物価格下落、人口増加、
国家総動員、総力戦、新興勢力、革新官僚、戦争

といった大きなキーワードを組み合わせ並べ替えて考えてみる。

日本の場合、黒船などの外圧があり、それに対抗するために
身分の垣根を壊す官僚制度が作られた。
そこから近代技術の大量導入が起き、生産力と人口が増えた。
その人口と生産力は兵力の増強のために使われた。

満州に進出した時点でそれまでの拡大路線は行き詰まったが、
国内ではさらに近代発展路線は進んだ。
巨大で効率的な近代産業を従えた巨大で効率的な都市に、
農村社会からも身分制度からも切り離された個人が集積し、
それを量産化したモダンメディアが先導することになる。

そこに現れる国民感情は右に左に膨張し、
暴動・弾圧・テロ・クーデターが起き、
まとまりきれないまま最終的に大政翼賛方向に流れた。
これが日本におけるナショナリズムである。
そして抑えられない奔流の個別勝手な解釈と行動が
より先鋭な奔流へと精製、精錬、結晶化し、砕けた。

 

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2017.09.26 パンセの書庫

『戦後と高度成長の終焉 日本の歴史24』 河野康子 著 2002年刊 講談社

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『戦後と高度成長の終焉 日本の歴史24』
河野康子 著 2002年刊 講談社

戦後から55年体制終焉に至るまでの現代政治史である。
この時代は歴史と呼ぶには近過ぎるようでもあり、
遠い過去の事のようにも思える。
ここに登場する政治家はほとんどが既に引退されているか
もうこの世にいらっしゃらない方ばかりである。
その点において過去である。
しかし、それにもかかわらず
最初の公約から40年近くが経って、
その間に与野党が連立したり逆転したり
何度も何度も何度も内閣が変わっても
消費税は依然として鬼門のままである。
そして財政再建は今に至っても
まだ延々先送りされ続けている。

この停滞はあまりに長く理屈に合わないものである
高度成長終焉後の日本の政治は、
もしかしたら何かとても大きなものを
見落とし続けているのだろうか。

日本の古式に則って、この呪いを断ち切るために
消費税を祀る神社を建てるべきかもしれない。
政治家が増税に触れると疫病に罹って再起不能になってしまう。
ならば神様の御神託だと言うしかないだろう。
大蔵省というかつての神様に代る神様を勧請するのである。

 

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2017.09.26 パンセの書庫

『テラスで読む 日本経済の原型』原田泰 著 1993年刊 日本経済新聞社

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テラスで読む 日本経済の原型
原田泰 著
1993年刊 日本経済新聞社

 

isu<テラスで読む>という軽めのタイトルのわりに内容は堅いです。
リビングで読むよりもさらに堅くて、
レント・シーキングなどという経済用語が出て来た時点で
書斎に片足を突っ込まないと読めなくなります。

後に文庫化された時には『世相でたどる日本経済』という
タイトルに変更されていますが、内容からはさらに遠ざかっています。
映画の話なども出てはきますが、それはおまけ程度です。
中心となる内容は、戦前と戦後経済の断絶、
そして戦中期と戦後経済の連続性の批判的な分析で、
1990年代に多く発表されていた議論に連なるものです。
戦中期と戦後経済の連続性という見方は
おそらくバブル崩壊の原因を探る中で浮き上がって来た論点でしょう。
バブル崩壊を全体主義による経済敗戦とする見方で、
そこから経済をもっと自由化すべきだということになり、
後の金融ビッグバンの動きに合流していきます。

著者は日銀の審議委員にも就任されたエコノミストで、
ヒトラーの財政政策を正当化するコメントを述べたとして
最近見事にhonoo<炎上>honooされた方です
<ヒトラーが行った正しい経済政策>と言わずに
<ヒトラーに利用され効果を発揮した経済政策>と
ちょっと遠回しにすれば
非難を免れたかもしれません。

 

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2017.09.20 パンセの書庫

『昭和史講義』 筒井清忠 編 2015年刊 筑摩書房

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『昭和史講義』
筒井清忠 編
2015年刊 筑摩書房

 

昭和の歴史に関する認識をブラッシュアップし
バージョンアップさせてくれる本である。
日本は一方的に戦争へと突き進んでいったわけではなく、
戦争に反対する力が強かったがゆえにその反動も強く、
その反動の根拠が社会格差やマスメディアにあった。
貧しさから命をかける軍人になった者たちが
軍縮が決まった途端に平和の敵として後ろ指を指され
10万人近くが一斉にクビになるという理不尽。
そして暗殺やテロが起き、
何か起きるたびに、あるいは何も起きなくても
マスメディアは右に左に煽情する。
政治は足の引っ張り合い以外に目標を持たず、
何も決められないまま 突如「日本」とは言えない日本の果てで戦闘が始まり、
いつのまにか戦時バブルの熱狂にすべてが巻き込まれていく。
そして無為無策の政治を置き去りにして
優秀な官僚たちによる統制経済だけが着実に進んでいった。
その頃の経済の中心にいた人物の一人が
安倍首相の祖父・岸信介であった。
現在首相が繰り出す様々なスローガンは
戦時経済体制を作った祖父ゆずりのものかもしれない。
そして意外なのは当初の大政翼賛体制を
経済界だけでなく、右翼や軍部までもが強く批判したことである。
何が右で何が左かわからない、まさに右往左往の時代であった。

 

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2017.09.20 パンセの書庫

『現代日本経済システムの源流』岡崎哲二・奥野正寛 編 1993年刊 日本経済新聞社

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現代日本経済システムの源流
岡崎哲二・奥野正寛 編
1993年刊 日本経済新聞社

 

日本的とされる戦後の経済体制の特徴が、
近代にどのように構築されてきたかを
企業システムや税制、農協などを取り上げ
比較制度分析の視点で分析したものである。
突き詰めて言えば日本の戦後経済体制を規定していたものは、
戦時に進められた徹底した経済統制の仕組みであったということだ。
それは戦後の復興からバブル崩壊まで続いた強固な仕組みであった。
バブルが崩壊し、本書が出版されてから四半世紀を経た現在、
日本の経済は世界的な変化の波を受け
革命的とも言える構造改革も行われて来た。
そして企業の姿は戦前のアングロ・サクソン型に近づいてはいるが、
それが政治や国民の感性と波長が合っていないように見える。
日本人は日本国という大きな護送船団に乗っている時の方が
底力を発揮できるのかもしれない。
いや、護送船団に乗って「辛くてもみんなでガンバロー!」
と叫んでいるのが何よりも好きな極東の島の約1億人の集団こそ
真正の<日本人>と呼ばれるにふさわしい存在なのかもしれない。

 

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2017.09.20 パンセの書庫

『昭和維新試論』 橋川文三 著 2013年刊 講談社学術文庫

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昭和維新試論
橋川文三 著
2013年刊 講談社学術文庫

 

明治の終わりから昭和の初めにかけて、
戦争に向かって流れていく時代の意識を
当時を生きた個別の人物に寄り添うように分析した評論である。
雑誌連載をもとにして、最後まで仕上げることなく
著者が亡くなっていることもあり
全体としてのまとまりにはやや欠ける気はするが、
取り上げられている個々の人物への思い入れは強く感じられる。
特に渥美勝などに対して感じられる共感は
客観的な人物評を超えて強引な気がするほどで、
著者はそこに自己の深い心理を勝手に重ねているように思う。
しかし著者が感じているそれぞれの人物への共感は、
この評論にリアリティと迫力を与えている。
歴史的事実としてのリアリティではなく、
そこにそんな人物が確かに存在したのだというリアリティである。
そしてそんな人々がいたことをリアルに感じることで、
その時代をもリアルに感じることができるのであり、
その時代が現在まで続いていることを理解できるのである。
それは戦前も戦中も戦後も今もずっと
果てしなく続いている
苦悶と疑問と愚問の近代という世界である。

 

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2017.09.12 パンセの書庫

『日本近代史』 坂野潤治 著 2012年刊 ちくま新書

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『日本近代史』
坂野潤治 著
2012年刊 ちくま新書

 

明治維新から80年間の近代史を記した著者は、
日中戦争の始まるところで筆を置きこう述べる。
「異議を唱える者が絶えはてた
「崩壊の時代」を描く能力は、筆者にはない」
逆に言えばそこまでは歴史として描ける対立や対話が
存在したということである。
そして日本が国力のすべてを動員して戦い続けていたにもかかわらず、
「崩壊の時代」には構造として描ける歴史がないのである。
日本は「歴史」を形作る力さえ燃やし尽くしていったかのようである。
そこは崩壊をじっと見つめ続けるだけの<歴史の果て>であったのだろう。
その時代を原体験として知る筆者は、
その時代について描かないことによって、
そこにあった全面的で圧倒的な空虚を
それまでの80年間と対比して示しているかのようである。

 

 

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2017.09.12 パンセの書庫

『戦争の日本近現代史』 加藤陽子 著 2002年刊 講談社現代新書

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『戦争の日本近現代史』
加藤陽子 著
2002年刊 講談社現代新書

 

 

<国民感情>というような捉えどころのないものが
革命や戦争といった国家の危機的局面で
そのストレスにたいしてどのように変化したか。
そして捉えどころのないものが、
抑えようのないものに変化することで
押し流された国家はどのように漂流し座礁したか。

本来、捉えどころのないものなのだから、
その歴史を突き詰めて断定することは無理な話なのだが、
それでもそこをながめ続け研究し参照することは、
歴史以上に捉えどころのない現代と向き合うために
たいへん重要なことである。

現に今アメリカやイギリスで起きていることは、
第二次世界大戦の前に起きていた動きによく似ている。
移民を排斥し、国際的な枠組みからの脱退するような動きである。
もちろんそれぞれの動きにはそれなりの正当な理由があり、
国民の正当な支持も得て、
それでもそこからこじれてこじれ続けて
二転三転四転して転がり続けて
最終的に開戦という選択肢しか残らなくなっていくのである。
アメリカとメキシコの国境に壁が築かれて、移民が追い返されても、
メキシコはアメリカに奇襲攻撃を仕掛けたりはしないだろう。
でも新たなテロの火種にはなるだろう。

 

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2017.08.21 パンセの書庫

『日本の近代とは何であったか』 三谷太一郎 著 2017年刊 岩波新書

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『日本の近代とは何であったか』
三谷太一郎 著
2017年刊 岩波新書

 

「私なりに日本近代についての総論を目指した」
これはこの本の帯に記された一言である。
宣伝文句としては控えめで素っ気ないものである。
そもそも宣伝文句になってさえいないようなものだが、
この素っ気なさこそが、この著作に込められたものの
重要性を表現している。
80歳の政治歴史学者の実直で精力的な研究人生の集大成。
それに中途半端な装飾文句を付け加えるのは逆に失礼なのである。
重厚にして鮮やか。そして無駄がない。名著である。

日本の近代化/憲法/天皇/議会/市民社会/国際社会
これらをどう理解し、論としてどう組み立てるか。
歴史の見方は学者によって違うし、
三谷史観が絶対正しいというわけでもないだろうけれど、
説得力は抜群であり、多くの人たちに影響を与え続けるだろう。

 

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2017.08.19 パンセの書庫

『隷属なき道』 ルトガー・ブレグマン 著 野中香方子 訳 2017年刊 文藝春秋者

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隷属なき道
ルトガー・ブレグマン 著 野中香方子 訳
2017年刊 文藝春秋者

 

 

ベーシックインカムそのものは、政策として
極めて重要な選択肢のひとつだと思う。
決定的に革命的な一手であるだけに
指すことが極めて困難な手でもある。
その政策によって社会がどう変化するかを
考えるだけの想像力を人々はもっていない。
想像もできないことを実行はできない。
もちろんこの本に書かれている根拠だけではまったく不足である。
冷戦時代のニクソンの考えが現在に適用できるとは思えないし、
スピーナムランド制度の報告書が正しいかどうかも
ベーシックインカムの実施に直接関係しない。
フォードやケロッグが仕事のない従業員に賃金を保証したわけでもない。
周辺的な、状況証拠のようなものをいくら繰り返しても
説得力が増すわけではない。
それでも、想像することすらできないことを、
議論や社会実験を通して次第に思い描けるようになっていく
きっかけの一つをつくるという意味で、
少々冗長なこの本も有用である。

 

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